「花咲くいろは」昨日の朝日新聞朝刊より

’11記者リポート:「花咲くいろは」 ご当地アニメ、効果絶大 /石川

湯涌温泉宿泊客増、ブーム生かす取り組み重要

お年寄りのお客が多い温泉街や、列車が少なく、閑散としたローカル線の駅に、20代の若い男性が詰めかける−−。そんな現象が、石川県内各地で起きている。その原因は放映中のアニメ「花咲くいろは」。実在する石川県内の旅館などがモデルの風景が登場する「ご当地アニメ」で、舞台とされる場所を巡るファンが相次いでいる。湯涌温泉金沢市)では、宿泊客も3割近く増えた。時ならぬブームにわく現場を訪ねた。

 ◆舞台は「石川」

作品は、今年4月から放映開始。物語は女子高生の主人公が、石川県の温泉旅館に住み込みで働き始めるところから始まる。作中の旅館のある「湯乃鷺温泉」は、湯涌温泉がモデルとされる。主人公の通う高校は金沢美術工芸大(同)。通学に使うのは「のと鉄道」(本社・穴水町)で、旅館の最寄り駅が七尾市の西岸駅、高校の最寄りは同市の能登中島駅。金沢市犀川大橋や、しいのき迎賓館などもモデルで登場する。

作品は映像制作会社「ピー・エー・ワークス」(本社・富山県南砺市)が企画・原作。同社の別のアニメにも、本社のある南砺市などが登場し、ファンが訪れているという。

 ◆押し寄せるファン

「アニメ効果は絶大」と語るのは、湯涌温泉観光協会の大田忠吉事務局長。4月に行ったイベントでは、開始の5時間前からファンが長い列をつくった。同協会は5月から、石川県内の各地を背景にした登場人物のポスターを5枚1組で販売。2000組が約3カ月で売り切れた。中には1人で10組以上購入した人もいたという。

同協会の9旅館の今年7、8月の宿泊者数は、前年に比べ26%増えた。宿泊客はこれまで県内の人が約6割を占めていたのが、逆転して県外の人の割合が高くなったといい、大田事務局長は「アニメで『湯涌温泉』の知名度が全国的に上がったため」とみている。

 ◆アニメが「現実」に

作中の「湯乃鷺温泉」では10月に「ぼんぼり祭り」という祭りが行われる。架空の祭りだが、同協会は、その名をつけた祭りを作中と同じ10月に湯涌温泉で開くことにした。祭り当日の10月9日には、登場人物の声優が参加するイベントもあり、同協会は「過去に湯涌で見たこともないほどの数の人が来るのではないか」という。

「アニメがなければ石川に来なかった」、「すごく良いところだったから、また来る」−−。同事務所にある、ファンが記念に寄せ書きするノートには、そんな言葉が並ぶ。ノートは現在3冊目。全国から訪れたファンが書き込み、中には韓国語や中国語もあった。

湯涌温泉で、石川を訪れたのは2度目という、東京都の大学生の男性(20)に会った。「アニメで見た場所と現実が一致すると感動する。作中の風景は美しいが、実際の風景もよかった。アニメがなければ石川県に来ることはなかった」と、興奮気味に語った。

「アニメ・マンガで地域振興」の著書がある、北海道大の山村高淑准教授(観光学)は「ブームを一過性で終わらせないようにするには、観光業だけでなく、地域全体で取り組むことが重要。ご当地アニメのファンを、その地域のファンにできるかがカギ」とみる。大田事務局長は「アニメに特化するのではなく、本来の湯涌温泉の魅力を伝えたい。若い世代の人たちに、リピーターになってほしい」と、期待を込める。


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