本日の北國新聞朝刊より「潮間帯 ブームを定着させるには」

先日、アニメ「花咲くいろは」の劇場版を遅ればせながら見に行った。
石川県の温泉旅館で仲居として働くことになった東京育ちの女子高生の成長を描いたテレビアニメの番外編といえる劇場版。本編は2011年4〜9月に放映されて人気を博し、モデルとされた金沢の湯涌温泉はファンが押し寄せたほか、作中に登場した架空の「ぼんぼり祭り」を地元温泉街が現実化し、低迷していた同温泉街の復活につながった。
前項上映は3月30日からだが、アニメの舞台として登場する石川県では「先行公開」として4館で3月9日に封切られた。筆者は年度末の所要などが重なったため、封切りからほぼ1週間遅れて見たわけだが、本編以上の良作に仕上がったと思う。
本編がどちらかと言えば主人公の若さゆえの空回りとスピード感が前面に出ていたのとは対照的に、劇場版では、主人公が険悪な関係だった母親に対しての理解を深めると同時に、ほかの登場人物の家族との結びつきを描くなど、東日本大震災後の「絆」を意識したような濃厚な作りで、筆者は不覚にもほろりとなりそうになった。
近年、人気あるアニメの舞台をファンが訪問することを「聖地巡礼」と呼び、低迷する観光地がにぎわいを取り戻すことでも注目されている。その中でも「花咲くいろは」の舞台は聖地巡礼地域活性化につなげた代表的な成功例とされる。
だがアニメはあくまでもきっかけにすぎないし、一過性のものだ。「巡礼客」の目も肥えているから、宣伝が行き過ぎても、マンネリになっても逃げられてしまう。現在の情報化社会は、ただでさえ変化の速度が速く、3年前の知識や知見でさえ役に立たず、中高年の「昔の経験」も通用しなくなっている。今年3年目を迎える「花いろブーム」をいかに実のあるものとして定着させられるか。湯涌および石川県全体の知恵と想像力が試されている。