3月21日の北國新聞朝刊より「映画レビュー 劇場版花咲くいろは HOME SWEET HOME 夢に向かって少女は走る」

本作は2011年4月から全26話で放送されていたTVアニメの映画化作品である。TVシリーズでは登場人物一人ひとりの悩みや成長が丹念に描かれた。その描写が多くの共感を呼び、今回の映画化が実現したといえよう。
物語の舞台は喜翠荘という温泉旅館。金沢市湯涌温泉がモデルとなったことでも話題の作品である。(随所に緻密な絵で再現された場所が出てくる)。
主人公は松前緒花。東京からひとりで喜翠荘に引っ越して仲居を務めることになった女子高生。他にも彼女の同級生である鶴来民子(板前見習い)、押水菜子(仲居仲間)、和倉結名(ライバル旅館の娘)が活躍する。
そして、緒花んも仲居修行は決して順風満帆なものではなかった。母の都合とはいえ、慣れない環境で生活するだけではなく、大人でも難しい「おもてなしの心」までも身につけていかねばいけなかったのだから。時間を忘れて仕事に追われる日々。懸命に働いた後の部屋では話す気力も無くて、心細くなる夜。時には、遠くの景色を見ながら自分の夢について考えることも・・・。
しかし、夢を見ていたのは緒花だけではない。
将来、自分は何をしたいのか。本当に自分の夢は何なのか。ひょっとしたら、ここじゃない違うどこかでもっと輝くことができるんじゃないか。
この思春期特有の迷いや焦り、苛立ち、そして希望といった様々な思いが押さえきれない瞬間。
少女は叫ぶ。
「輝きたいんですっ!」
これは、大人になるための「いろは」を描いた物語なのだ。いつの日か、少女は自立しなければいけない。
喜翠荘は心の中にあるマイ・スウィート・ホームであり、きっと、いつでも優しく自分を受け入れてくれるだろう。もう少し泣き虫な子供でいさせてくれるだろう。
でも、夢は叶えたい。
だからこそ、乙女は走る。
その先に花は咲く。
男性だけではなく、むしろ多くの女性に見てもらいたい作品である。