本日の北國新聞朝刊より「湯涌に湯治場復活 自炊OK、一泊3千〜4千円 来月、素泊まり宿開業」

金沢の奥座敷湯涌温泉に7月、湯治場が半世紀ぶりに復活する。北陸新幹線開業を見据え、総湯「白鷺(しらさぎ)の湯」に近い空き店舗を地元有志が改装し、自炊場を備えた素泊まりの宿に再生した。長期滞在を想定し、宿泊費は一泊3千〜4千円程度に抑え、 湯治のほか、釣りや農業体験を提案することで、外国人など新たな客層を呼び込む。
湯治場を開設するのは、湯涌住民有志でつくる団体「花咲く湯涌まちづくりネットワーク推進プロジェクト」リーダーの北幹夫さん(55)と、メンバーの足立泰夫さん(54)。「金沢湯涌ゲストハウス」と銘打ち、湯涌温泉がモデルとなったアニメ「花咲くいろは」の世界を再現する「湯涌ぼんぼり祭り」点灯式前夜の7月20日に開業を予定する。
建物は総湯や旅館が並ぶ通り沿いの元すし店で、10年ほど前から空き店舗となっていた。湯涌地区の再生に取り組んできた北さんが昨年、コミュニティースペースの開設を目的に建物を購入。厨房(ちゅうぼう)のほか、いろりのある部屋や紅殻(べんがら)壁の広間など趣のある和室を多く備えており、湯治場として活用することにした。
入浴は総湯をはじめ、近隣の浅の川温泉、板ケ谷温泉を利用してもらう。温泉街の店と提携し、地元特産品を並べる購買部や喫茶も設ける。
約1300年の歴史を誇り、歴代加賀藩主の湯治場として栄えた湯涌温泉は、農作業の疲れを癒やす湯の里として人々に親しまれてきた。昭和初期には、自炊場のある素泊まりの湯治場は複数あったが、観光ホテルの進出などで昭和30年代までには姿を消した。
湯涌には現在、一泊1万〜3万円程度の料理旅館が立ち並ぶ。湯涌温泉観光協会の安藤精孝(せいこう)会長(66)は「湯治客や、日本の生活を体験したい外国人客など、これまでにない宿泊客に湯涌を選んでもらえる」と期待する。昭和10年代に湯治客を受け入れていた湯の出旅館主人の宇野博さん(65)も「湯治場は温泉の原点。古くて新しい試みを応援したい」と歓迎した。
湯治場の運営は、湯涌の自然にほれ込み20年前に移住した足立さんが務める。医王山トレッキングや渓流釣りなどの野外活動、農業体験施設・金沢湯涌みどりの里や湯涌創作の森など周辺施設と提携した体験プログラムを準備し、「金沢の里山」の魅力も伝える。
建物を提供した北さんは「湯涌を楽しむ選択肢が増えることで、多彩な人を呼び込める。宿や飲食店、周辺施設と協力しながら、活性化の相乗効果を狙いたい」と話した。